一人会社の場合の代表取締役への後見審判について~実務上の注意点~

1 話すことの概要

さて、コロナ終息の兆しも見えない中、ムシムシした苦痛な季節がやってまいりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。熱中症などにも気を付けて健康第一で頑張りましょう。

本日お話ししたいのは、一人会社の社長さん(代表取締役)が後見開始の審判を受けた場合の法的状況についてです。

2 後見制度の概要

この後見制度とは何かというと、高齢や病気などによって、自らがなにかを行った結果が、自分にとって有利なのか不利なのか判断ができない状態(法律用語で、事理弁識能力を欠く状態といいます。)になってしまった人に対し、裁判所が審判で後見人を選任し、後見人に、財産を本人(後見の審判を受けた本人を「被後見人」といいます。)を本人に代わって管理させたり、本人の生活の維持や医療、介護等、身上の保護に関する法律行為を行わせたりする制度です。

この後見人というのは、一般の人でも、家族の誰かの判断能力を衰えてしまったときに、自分が後見人になっている場合もあるので、馴染みがあるかもしれません。

ただ、本人(被後見人)の立場によって、後見人がやることも変わってきます。

3 今回話すこと~一人会社の代表取締役が後見の審判を受けた場合~

⑴ 本人の財産の管理を誰がやるのか

今回は、【本人(被後見人)が、一人会社の代表取締役で、全て(又はほとんど)の株式を一人で持っている場合】(『本件事例』)を想定します。

後見の審判を受けると、本人(被後見人)の財産は、全て、後見人の管理下に置かれるので、後見人でない家族の方が本人(被後見人)の財産を持っている場合、財産を後見人に引き渡して、管理してもらうことになります。

『本件事例』の場合、まず、本人(被後見人)の株式含め本人(被後見人)名義の財産は、全て後見人が引き継いで管理します。

なお、『本件事例』の場合、本人(被後見人)は、「会社の財産」を所持しています。このような「会社の財産」はどうなるのでしょうか。やはり後見人が引き継ぐのでしょうか。これは、この後で説明する、本人の地位(法的地位)がどうなるかに関わるので、後ほど説明します。

⑵ 会社の代表取締役の地位は失われるのか

次に、後見の審判を受けると、『本件事例』の本人(被後見人)の代表取締役の地位(法的地位)はどうなるか説明します。

会社は代表取締役と委任契約を結んでいます(会社法330条)。つまり、会社は、代表取締役に、会社を経営して取引などを行う社長としての業務の執行を、契約で代表取締役に任せているということになります。

しかし、この委任契約は、一定の事情が生じると解消されてしまいます。その事情の一つが、契約の当事者が後見の審判を受けることです(民法653条2号)。

つまり、『本件事例』において、本人(被後見人)は、後見の審判を受けた段階で、会社との委任契約が解消され、代表取締役ではなくなります。

ただ、さらにやっかいな法律があり、問題が複雑化します。代表取締役(兼取締役)が本人(被後見人)一人の会社で、その人が辞めてしまったことで、会社の代表取締役がいなくなってしまった場合、会社法は、他の代表取締役が選任されるまでの間、辞めてしまった元・代表取締役が代表取締役(及び取締役)の地位を得ることになるのです(会社法346条1項、会社法351条1項。※1)。

そのため、『本件事例』のような、代表取締役が一人の会社では、本人(被後見人)は、他に代表取締役が選任されるまでの間、その会社の代表取締役で居続けることに「なってしまいます」。

「なってしまいます」とは、かなりマイナスなニュアンスですが「え、会社の代表取締役のままで、地位を失わないんだからラッキーじゃん!」と思うかもしれませんが、そうではありません。

※1 なお、これまでは、会社法で、取締役の欠格事由(取締役になることができない事情)に、「被成年後見人」という事情(会社法331条1項2号)があったのですが、近年の改正で削除されたため、後見の審判を受けた場合でも、会社の取締役や代表取締役になることができてしまう状況です(以下で述べるように、現実にはなることはできても、困ったことになるだけだとは思います。)。

『本件事例』の本人は、後見の審判を受けた人です。後見の審判を受けたということは、先ほど述べた後見制度の説明の通り、自らがなにかを行った結果が、自分にとって有利なのか不利なのか判断ができない状態になっているということになります。

つまり、『本件事例』の本人は、会社を運営するのに必要な判断能力は全く備えていない状態です。そのため、会社を運営するのは実質不可能な状態で、しかし、会社の代表取締役ではあるという状況に追いやられていることになります。

この場合、どうなるのかというと、本人(被後見人)は、判断能力がないので、会社の運営ができませんから、会社との委任契約における「会社を経営して取引などを行う社長としての業務の執行」を行うという仕事(委任事項)を行えません。当然、仕事をしていないので、役員報酬を貰うこともできません。単に、会社の代表取締役の権利義務を持っているというだけで、実際には何も得ることができないのです。

会社の代表取締役はいるものの、本人(被後見人)に判断能力がないので、会社の従業員や取引相手などの関係者も困ってしまいます。従業員は、誰からも給料が支払われず、取引先は取引した内容を実践してもらえないからです。

また、本人(被後見人)は、事実上の能力的に、会社の財産も管理することができなくなっているので、これも誰が管理すればいいのか困ったことになります。

⑶ 後見人が本人(被後見人)に代わって、代表取締役の業務執行をできるか、会社の財産を管理できるか

この点、後見人は本人(被後見人)に代わって本人に代わって財産を管理したり、本人の法律行為を行ったりする職務を負っているので、後見人が、本人(被後見人)に代わって会社の代表取締役の業務執行(従業員に給料を払ったり、取引先の対応をしたり)を行う、会社の財産を管理する、ことができないのでしょうか。

この問題について、明確な法律の整備はありませんが、先ほど「※1」で述べた会社法改正の法制審議会(法律の改正などに際して、当該法律に関する基本的な事項を調査審議する法務省に設置された会議体で、大学の教授等の専門家が配置されます。)において、「取締役等は,いずれも,その個人の能力に着目して選任される者である。また,成年後見人又は民法第876条の4第1項の審判に基づき代理権が付与された保佐人は,株式会社の承諾なく交代する可能性があり,会社法上の取締役等の責任も負わない。そこで,本欠格条項を削除する場合であっても,会社法上,成年被後見人等が取締役等であるときに,成年後見人又は同項の審判に基づき代理権が付与された保佐人は,職務の執行を代理することはできないものと解すべきである」として、後見人は本人(被後見人)の代わりに会社の業務執行はできないものとされています。

代表取締役含む取締役等の役員は、各々の能力や個性に着目されて(決断が速い、仕事が早い、人柄がいい等)選ばれていますから、そのような能力や個性を引き継げない後見人に、業務執行を委ねることはできない、ということになります。当然、会社の業務を代わりにできないということは、それに含まれる会社の財産の管理も後見人はすることはできない、ということになります。

⑷ 一人会社の代表取締役が後見の審判を受けた場合にどうなるか~結論~

そのため、一人会社の代表取締役が後見の審判を受けた場合(『本件事例』の場合)、結論としては、代表取締役の業務執行も会社の財産の管理も、行えるものがいなくなり、会社が事実上動かないことになります。

⑸ ではどうすればいいのか~対処編~

このままでは、会社の従業員も、取引先も困りますね。代表取締役の役員報酬で生活していた家族も困ってしまいます。

そこで、どうすればいいのか。それは、新しい代表取締役を選ぶ、しかありません。

新しい代表取締役を選ぶには、①新しく代表取締役になる人を探して、②(会社の就業規則により選任対象や選任方法は色々ですが、)基本的に株主総会を開いて、その人を会社の代表取締役にするのです。

①新しく代表取締役になる人は、事実上、家族や従業員等、今まで会社に関わってきた人が探すか、自分がなるしかありません。(※家族がなる場合には、代表取締役として仕事をすれば、生活源の報酬をもらって元の生活に戻れる可能性もあります)

②株主総会は会社の株主、『本件事例』でいうと、株式を管理している後見人が、株主総会を開いてあげる必要があります。当然、選ばれた候補者を選任するのか正しいのか、そのときに判断する必要がありますので、家族や従業員等の会社関係者とよく相談して決めることになります。

このように、言うだけなら簡単ですが、現実にはそう簡単なことではありません。まず第一に、①会社の代表取締役になってくれる人を探すのが困難だからです。

そこで、後見の話をここまで話して少しずれた結論になるのですが、社長(代表取締役)が後見の審判を受ける前に何とかしておいた方がいいです!

すなわち、一人会社の社長(代表取締役)、又は、実質的に一人で事業を行っている社長の方は、早めに、後継者を探しておいた方がいいということです。

そうすれば、いざご自身がどうなっても、後継者が新たな代表取締役になって、何とかしてくれます。

後継者がいないままであると、以上のような分かりにくい後見の問題になり、そして、例えば、専門職(弁護士など)の後見人が就任したとしても、問題の解決をすることができるか分からない(十中八九、難しいでしょう)のです!

これは、数名の取締役がいる会社でも同様です。後継者がいないまま、代表取締役の判断能力がなくなると、結局、後継者が代表取締役を引き継ぐまで、『本件事例』よりはまだマシですが、同じような問題(取引が進められないなど業務執行が滞る)に巻き込まれかねません。

なので、結論として、今日言いたいことは、「社長の皆様、後継者を早めに見付けておきましょう。」ということでした。

それでは、本月はこれまでに。長文をお読み頂き、感謝致します。

ではまた今度お会いしましょう、さようなら。

弁護士 板橋 勇太