亡くなった人が外国人の場合の相続時の具体的な問題・予防策~相続と国際私法(法の適用に関する通則法等)~

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1 話すことの概要
さて、国内でのコロナの問題や海外での戦争など終わりのない深刻な問題が続いている今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。花粉症対策などにも気を付けて健康第一で頑張りましょう。
今回は、外国籍の方がお亡くなりになった場合に、相続をする際の具体的な問題点と、考えうる予防策をお話ししたいと思います。

2 例題
例えば、日本に住んでいるS国籍(外国籍)のSさんがいるとします。
Sさんは、日本国籍のAさんと結婚していて、Aさんとの間に子どもBさん(同じく日本国籍)がいます。SさんはAさんと結婚する前に、S国に住んでいて、S国でもCさんと結婚していて、Cさんとの間にD君がいます。
そんな中、Sさんがお亡くなりになり、配偶者Aさんと子どもBさんは、Sさんの遺産分割を行うことになりました。Sさんは、日本に預金口座を持っていたので、AさんとBさんは、銀行にSさんが亡くなったことを伝えて、預金口座2人で分けようと思い、銀行に確認しました。
そうしたところ、銀行の担当者から「それでは、Sさんの相続人を全て特定できる資料を提示して下さい。」と言われました。

3 具体的な問題点
⑴ どの法律を使えばいいのか?
まず、ある人が亡くなった場合、誰が相続人になるのか、という問題は、日本国籍の方の方が亡くなった場合には、問題なく日本の法律(民法)を使います。日本だと、亡くなった人の配偶者、子どもは問題なく、相続人になります。また、Sさんの預貯金も、当然、遺産として相続の対象になります。
ただ、外国籍の方が亡くなった場合には、その亡くなった人の国の法律を使うことになります(法の適用に関する通則法36条)。このような制度になっている理由は、亡くなった人の個性(国籍)に着目して、その個性(国籍)にふさわしい相続を行うべきことなどが理由として挙げられます。
上の例題だと、Sさんの国籍、S国法(より具体的にはS国内の相続に関する法律)が適用されることになります。
世界には、日本と同じように配偶者も子どもも相続人になる法制度を取っている国が多いですが、そうではなく、配偶者や子どもが相続人になっていない国もあります。また、亡くなった人の財産が遺産にならず、国に取られてしまう国もあるかもしれません。また、相続の際の各人の取分(相続分)の割合が日本と違う、話し合いで遺産分割ができないなど、日本と異なる相続のやり方をしている国は数多くあります。そのため、AさんやBさんが相続人になっていない、又は預金が相続の対象(遺産)になっていないなど日本と異なる相続をしなければならない可能性さえあるので、非常に問題になります。
その確認のために、AさんやBさんが遺産分割を進めるには、S国の相続法を何らかの方法で取り寄せなければなりませんが、AさんBさんがS国のことをよく知らない場合、この取り寄せは非常に難しくなります。
⑵ 外国にいたときの相続人の調査が必要
例えば、上の問題をクリアして、AさんがS国の相続の法律を取り寄せできたとします。S国の相続の法律では、日本と同じようにAさんのような配偶者、Bさんのような子どもが相続人となっていて、預貯金も相続の対象(遺産)になっていました。相続の際の取り分の割合も、遺産分割が話し合いで可能なこと(遺産分割協議)も、日本と同じでした。
そして、次の問題です。Sさんは、S国にいる時にCさんと結婚していました。このCさんとの間に子ども=相続人がいるかもしれません。
SさんとCさんとの結婚があったこと、Cさんとの間に子どもがいたかどうか、いる場合にはどの人が子どもなのか、などS国にいたときのSさんの出生から死亡時までの相続人を調べること(相続調査)が必要になります。
日本のように戸籍で相続人を調査できる国はほとんどありませんので、S国では戸籍以外で、戸籍と同じような資料を取り寄せて、Sさんの相続人調査を行わなければなりません。AさんBさんがS国のことをよく知らない場合、さきの相続の法律を取り寄せるよりも、この取り寄せの難易度は高いといえます。
⑶ 色々な問題が起こりうること
他にも、SさんがS国に他に財産を残してきた場合には、これもAさん、Bさんは相続することになりますが、その回収方法など、外国籍の方が亡くなった場合には、日本国籍の方が亡くなった場合に比べて、通常よりも困難な問題が起こりえます。
4 対策
外国籍の方が既に亡くなってしまった場合には、上記のような問題が生じ、場合によっては各国領事館や各国の弁護士などの専門家に依頼して必要な情報・資料を取り寄せなければなりませんが、そもそも言語・文化も異なる国だとそのような専門家までたどり着くことも困難です。
そこで考えられる予防的な対策としては、外国籍の方が亡くなる前に、本人自身が、できる限りの資料を取り寄せておくことです。例題でいうと、SさんはS国民ですので、S国の庇護下にある可能性が高いといえます。また、SさんはS国語も話せるはずです。そのため、Sさん自身がS国から、またはS国内の専門家にアクセスして、事前に相続に必要な書類を取り寄せるのは、AさんやBさんよりも難しくないといえます。

5 予防が非常に大切なこと
以上、色々と難しい話をしてきましたが、結局のところ、何が話したいかというと、法律の問題一般にいえることですが、こと外国籍の方の相続は、何か起きる前の準備、予防が大切だと思います。このブログを読んで少しでも困難な問題が楽になることを祈って、お話しを締めさせて頂きます。

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どうもありがとうございました。

2022-04-21 | 遺言・相続