いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項の公表をうけて

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さて、本年1月11日に厚生労働省より「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下「留意事項」といいます。)が公表されました。シフト制では柔軟に労働日・労働時間を設定できるため、使用者側にも労働者側にもメリットがあり得る働き方が可能となりますので、業種によっては、シフト制を採用している事業者も少なくないかと思います。
しかし、シフト制の運用によっては、労働者との紛争を招来し兼ねません。最近では、コロナ禍の煽りを受けて、アルバイトのシフトが削られ、労働時間が減り、休業手当も支給されず、実質的失業状態に陥ったという問題が多発しました。このようにシフト制の抱える問題を何とかしようという考えで、厚生労働省は留意事項を公表したのだと思われます。
今回はこの留意事項の内容のうち、シフト制の労働契約の締結の際に事業者の方々が気をつけるべき点をご紹介いたします。

1 シフト制とは
まず、労働基準法その他の労働関係法令にシフト制について明確に定めた規定はありません。柔軟に労働時間を調整できる点で、特定の期間中に法定労働時間を超えた労働が可能になる変形労働時間制と混同されている方もいるかもしれませんが、変形労働時間制とシフト制は異なるものです。
では、シフト制とはどのようなものかというと、留意事項によれば、「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など。以下同様。)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいてはじめて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」をいうとされています。
2 シフト制労働契約の締結
⑴ 労働契約の締結に際しては、使用者は、労働者に対して、書面により労働条件を明示しなければならないとされています(労働基準法15条1項、同法施行規則5条)。シフト制を採用する労働契約についても、労働契約締結時に労働基準法所定の事項を明示することになりますが、留意事項は、「始業及び終業の時刻」や「休日」に関する事項について、次の点に留意する必要があるとしています。
ア 「始業及び終業の時刻」に関する事項
留意事項によれば、「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなければなりませんので、労働条件通知書等には、単に『シフトによる』と記載するのでは足り」ないとされています。その上で、「労働日ごとの始業及び終業時刻を明記するか、原則的な始業及び終業時刻を記載した上で労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要」と指摘しています。
イ 「休日」に関する事項
留意事項によれば、「労働契約の締結時に休日が定まっている場合は、これを明示しなければな」らず、「具体的な曜日等が確定していない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明示しなければな」らないとされています。
休日の設定に関しては、使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回又は4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとされています(労働基準法35条)ので、このような内容を満たすように考え方を明示する必要があります。
⑵ 労働条件については、就業規則により一律に定めている事業者も少なくないかと思いますが、シフト制を採用する場合には、就業規則の定め方にも気をつける必要があります。
留意事項によれば、「シフト制労働者に関して、就業規則上『個別の労働契約による』、『シフトによる』との記載にとどめた場合、就業規則の作成義務を果たしたことになりません」とされています。就業規則は、労働者の労働条件を一律に定めるものですので、このような記載では就業規則に定める意味がありませんので、当然のことといえます。
もっとも、留意事項は、「基本となる始業及び終業の時刻や休日を定めた上で、『具体的には個別の労働契約で定める』、『具体的にはシフトによる』旨を定めることは差支えないとされています。
⑶ シフト制を採用する事業者において、労使紛争を予防するには、使用者と労働者の双方の立場から労働条件が予見できることが重要です。そのため、留意事項によれば、労働契約締結の際には、シフト作成・変更の手続や労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方を示すことが望ましいとされています。
ア シフト作成・変更の手続
シフトは具体的な労働日や労働時間を定める労働条件の重要な要素となります。留意事項によれば、シフト表作成に当たっては、事前に労働者の意見を聴取することや、確定したシフト表を労働者に通知する期限、方法を定めておくことを推奨しています。
また、シフトの変更に関しては、労働条件の変更に該当するため、労働契約法8条を踏まえて、使用者と労働者の双方が合意した上で行うことが必要です。留意事項によれば、シフトの期間開始前に、確定したシフト表における労働日、労働時間等の変更を使用者又は労働者が申し出る場合の期限や手続、シフトの期間開始後に、使用者又は労働者の都合で、確定したシフト表における労働日、労働時間等を変更する場合の期限や手続を労働契約に定めておくことが考えられるとされています。
イ 労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方
留意事項によれば、労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方として、例えば、一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数、時間数、時間帯や、一定の期間において、目安となる労働日数、労働時間数を定めることが望まれるとされています。
3 最後に
留意事項は、他にもシフト制を採用するに当たって気を付けるべき点に触れていますが、本記事では労働契約締結時の留意点に絞って紹介させていただきました。この留意事項は、シフト制の問題点を注意喚起するという意味で事業者の方にはご一読いただくことをお勧めします。
一方で、留意事項という名称のとおり、留意事項は法的拘束力を持つものではありませんし、通達やガイドラインのように対応しなければならない事項を示すものでもありません。シフト制に関するトラブルを予防するには、使用者と労働者が対等に話し合う関係が構築できているかということが重要です。
シフト制やその他の労働関係でお悩みの事業者様は、法律事務所Sまでお気軽にご相談ください。

【参考】
厚生労働省HP「いわゆる『シフト制』について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22954.html

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どうもありがとうございました。

2022-02-01 | 労働問題