
ビジネスを運営していく上で、様々な法的リスクに直面することは少なくありません。しかし、法律の専門家である弁護士に相談するのは、コストがかかるため、なかなか踏み切れないのも実情です。
そこで、この記事では、顧問弁護士の必要性や費用対効果について、具体的な事例を交えながら解説します。法的リスクを未然に防ぎ、経営に集中できる環境を整えることの重要性をお伝えするため、ぜひ最後までお読みください。
なぜ?顧問弁護士の必要性とは

ビジネスの世界では、日々様々な契約や取引が行われています。この契約を結ぶ際の指標となるのが、法律です。
このことから、法律の専門家である弁護士は、契約書の作成や法的トラブルの解決において欠かせない存在です。しかし、中小企業や個人事業主の中には、「うちの会社は小さいから顧問弁護士の必要はない」と考える方もいるかもしれません。
確かに、顧問弁護士を雇うことはコストがかかります。しかし、それ以上に、事前に契約書をきちんと弁護士が確認しておくことで、法的トラブルを未然に防ぐことができるのも事実です。
例えば、従業員を雇用する際の労働契約書の作成。これを適切に行わないと、後々労働トラブルに発展する可能性があります。
また、新規ビジネスを始める際の各種契約書の作成や確認も、弁護士のアドバイスがあれば、リスクを最小限に抑えることができます。例えば、取引先の不払いや倒産の際に迅速に債権を回収したり、約束違反があった場合の対応を明確に定めておくなどしておくと、いざという場合に大変役立ちます。
顧問弁護士を雇うことは、「保険」に加入するようなものです。トラブルが起きる前に備えることで、万が一の際の損失を最小限に抑えられることを踏まえると、その必要性は高いでしょう。
個人・零細企業・中小企業にも顧問弁護士は必要?
結論から言えば、個人事業主や中小企業にも顧問弁護士は必要です。規模が小さいからこそ、1つのトラブルが会社の存続を左右しかねないものだからです。
例えば、従業員とのトラブルが発生した場合、弁護士のアドバイスがなければ、適切な対応ができず、労働基準監督署や労働者側の弁護士の介入を招いたり、労働審判等の手続に持ち込まれることになって、問題がさらに大きくなってしまうかもしれません。
また、新規ビジネスを始める際に、契約書の不備から想定外の損害賠償請求を受けてしまうなど、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクもあります。
小さな会社であれば、顧問弁護士に頼ることで、このリスクを未然に防ぐことができます。そして、会社が成長していく過程で、法令違反などの大きな問題を防ぐことにもつながるものです。
一方、大企業の場合は、社内に法務部門を設けて、弁護士を常駐させていることも少なくありません。日常的な法律相談は社内の弁護士が対応し、より専門的な案件は顧問弁護士に依頼するという体制を取っているからです。
このように、会社の規模に関わらず、法律の専門家である弁護士と連携することは、ビジネスを守るために欠かせません。
顧問弁護士が必要となる相談内容の例

中小企業が直面する法的問題は、以下のように多岐にわたります。
- 雇用問題
- 債権回収
- 契約書の作成
- 社内規程の整備
- 経営改善
- 事業承継
- クレーマー対策
- 知的財産権の問題
- 総会運営
- 課税問題
- 商品トラブル
- M&A
- ハラスメント
- 下請け問題
- 海外取引
この問題に適切に対処するためには、専門的な法律知識が不可欠です。しかし、中小企業にとって、社内に法務部門を設けたり、都度弁護士に相談したりすることは、コストの面でも現実的ではありません。
そこで、顧問弁護士の存在が重要になってきます。
顧問弁護士に相談した内容別の満足度
実際に顧問弁護士に相談した内容別の満足度を見ると、「大いに満足した」と「まあ満足した」を合わせた割合が、ほとんどの項目で80%を超えています。特に、総会・役員会の運営、契約書相談・作成、経営改善・再建・資金繰りなどの分野では、満足度が90%以上に達しています。
カテゴリ | 大いに満足した (%) | まあ満足した (%) | どちらともいえない (%) |
---|---|---|---|
雇用問題 | 35.2 | 50.5 | 10.7 |
債権回収 | 30.8 | 45.2 | 14.6 |
契約書相談・作成 | 48.6 | 44.3 | 5.1 |
社内規程・ルール整備 | 42.0 | 51.8 | 5.4 |
経営改善・再建・資金繰り | 51.3 | 35.9 | 10.3 |
事業承継 | 39.5 | 46.5 | 14.0 |
クレーマー対策 | 44.4 | 43.9 | 9.1 |
債権管理・保全 | 35.4 | 49.4 | 10.8 |
各種情報管理 | 45.8 | 41.7 | 12.5 |
知的財産権問題 | 36.4 | 50.9 | 8.2 |
総会、役員会の運営 | 54.9 | 37.3 | 3.9 |
課税問題 | 33.3 | 50.0 | 8.3 |
商品・製品トラブル | 33.3 | 47.6 | 14.3 |
M&A | 38.5 | 48.1 | 11.5 |
ハラスメント等社内問題 | 47.0 | 40.9 | 6.1 |
下請・不公正取引 | 41.2 | 35.3 | 19.1 |
海外取引 | 47.7 | 45.5 | 6.8 |
詐欺・悪徳商法問題 | 28.6 | 34.3 | 28.6 |
インターネット問題 | 40.0 | 50.0 | 10.0 |
海外進出 | 33.3 | 50.0 | 8.3 |
海外トラブル | 45.5 | 45.5 | 4.5 |
その他 | 40.2 | 37.4 | 11.2 |
平均 | 40.6 | 44.6 | 10.6 |
このデータは、顧問弁護士が中小企業にとって非常に有益な存在であることを示すものです。
もちろん、予算が限られている中小企業にとって、顧問弁護士への報酬額は負担に感じるかもしれません。しかし、トラブルを防ぎ、早期に解決できることを考えれば、長期的には大きなメリットがあるはずです。
事業を守り、成長させていくために、顧問弁護士の必要性を再認識してみてはいかがでしょうか。
参考:第2回中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書調査結果編|日本弁護士連合会
企業が顧問弁護士をつける5つの必要性

企業が顧問弁護士をつける必要性としては、以下の5つが挙げられます。
- 経営・ビジネスに集中できる
- トラブルを最小限に抑えられる
- 解決・交渉を有利に進められる
- コンプライアンスを強化できる
- コストを抑えられる
経営・ビジネスに集中できる
顧問弁護士をつけることで、取引や契約書のチェックを専門家に任せられるため、自社の経営資源を有効活用できます。また、クレームが発生した際にも、顧問弁護士が素早く対応・解決してくれるため、問題が長引くことなくビジネスに集中できるでしょう。
さらに、労務問題が発生した場合も、顧問弁護士に相談することで適切な対応も可能です。就業規則や雇用契約書の整備などの紛争予防業務を依頼すれば、経営者は安心して自社の成長に注力できます。
トラブルを最小限に抑えられる
顧問弁護士をつけることで、法的トラブルを未然に防ぐことができます。経営者は多忙を極めるため、法律の専門家である弁護士が代わりに目を通し、リスク回避の観点から問題点を指摘できるからです。
例えば、契約書の不備や法令違反などを事前にチェックしてもらうことで、後々大きなトラブルに発展することを防げます。顧問弁護士は、企業の法的リスクを常に意識し、トラブルを最小限に抑えるための適切なアドバイスをしてくれる心強い味方となります。
解決・交渉を有利に進められる
顧問弁護士は、自社内の業務や固有の事情に精通しているため、トラブルが発生した際には的確な解決策や交渉案を提示してくれます。自社の状況を熟知している弁護士だからこそ、最適な方法で問題解決の手段を適切に選べるためです。
社内の法務担当者とは違い、顧問弁護士は法律の専門家であり、豊富な経験と知識を持っています。その知識を活かして、交渉を有利に進めたり、訴訟になった場合の勝率を高めたりできるでしょう。
コンプライアンスを強化できる
顧問弁護士をつけることで、企業のコンプライアンス体制を強化できます。
法令遵守は企業にとって非常に重要な課題です。この際、専門家である顧問弁護士のチェックを受けることで、重大な法令違反を未然に防ぐことができます。
コンプライアンス違反が発覚すれば、企業の信頼性は大きく損なわれてしまいます。顧問弁護士による定期的な法務監査や、適切なアドバイスを受けることでリスクを回避し、企業の信頼性を高く保つことができるでしょう。
コストを抑えられる
自社で法務部門を設立し、インハウス・ローヤーを雇用するとなると、かなりのコスト負担が発生します。一方、顧問弁護士に法務をアウトソーシングすれば、比較的低コストで専門家の力を借りることができます。
顧問弁護士との契約は、月額固定の顧問料を支払う形態が一般的です。これなら予算の範囲内で、法務部門を素早く立ち上げることができるでしょう。
専門家の力を借りて、経営に集中できる環境を整え、トラブルを未然に防ぎ、万が一の際には有利に解決・交渉を進められることに加えて、コストまで抑えられることから、顧問弁護士の必要性は高まりを見せています。
顧問弁護士に依頼する際のデメリットは?

顧問弁護士に依頼する際のデメリットとしては、毎月一定の顧問料を支払うコストが挙げられます。しかし、顧問弁護士の必要性を考えると、このデメリットよりもメリットが上回ります。
まず、顧問弁護士を依頼できれば、経営やビジネスに集中できることがメリットです。法律の専門家である弁護士がトラブルを最小限に抑え、解決や交渉を有利に進めてくれます。
また、気軽に相談できるため、問題が大きくなる前に対処できます。その結果、全体のコストを抑えつつ、リスクを未然に防ぐことができるでしょう。
このことから、顧問弁護士への依頼は毎月のコストがかかるというデメリットはあるものの、その必要性と得られるメリットを考えれば良い投資とも捉えられます。
顧問弁護士の依頼に必要な費用
顧問弁護士の依頼に必要な費用は、企業の規模や依頼内容によって異なります。以下の表は、一般的な費用の目安です。
項目 | 金額 |
---|---|
個人・小規模 | 〜3万円 |
中小企業 | 3〜10万円前後 |
大企業 | 7万円以上 |
この費用は、あくまで目安であり、実際の金額は弁護士事務所によって異なります。ただし、顧問弁護士を依頼することでトラブルを未然に防ぎ、早期解決できるため、結果的にコストを抑えられることが多いです。
なお、費用について詳しくは下記ページもご覧ください。
関連記事:顧問弁護士にかかる費用相場は?”適正”を見分ける5つの基準
顧問弁護士の費用対効果を判断する4つの基準

顧問弁護士の費用対効果を判断する基準は、主に以下の4つです。
- 潜在的なリスクコストの削減
- コンプライアンス強化の便益
- 経営判断の適正化による付加価値の創出
- 緊急対応による損失最小化
潜在的なリスクコストの削減
顧問弁護士の存在は、訴訟、和解金、賠償金などの直接的なコストを回避する上で大きな役割を果たします。また、法的トラブルによる事業停止や企業イメージの悪化などの機会損失を未然に防ぐことにもつながります。
このリスクコストを金額換算し、顧問料と比較することで、顧問弁護士の費用対効果を定量的に評価できるでしょう。顧問弁護士の助言により、賠償金を支払うリスクを回避できたとすれば、その分だけでも顧問料の数年分に相当する価値があると判断できます。
コンプライアンス強化の便益
顧問弁護士との連携により、法令違反に伴う過料の回避やリスクマネジメントの強化による業務効率化が期待できます。また、コンプライアンスを重視する姿勢を示すことで、取引先からの信頼性が向上し、新規取引の獲得にもつながる可能性があります。
この便益は、直接的な金銭的価値だけでなく、企業の持続的な成長や競争力強化にも寄与するものです。顧問弁護士の必要性を判断する際は、こうした定性的な観点も考慮に入れることが大切でしょう。
経営判断の適正化による付加価値の創出
顧問弁護士は、法的リスクを踏まえた上での適切な投資判断やスムーズな契約締結をサポートすることで、経営判断の適正化と業務効率化に貢献します。また、訴訟リスクの低減により、経営資源を本業に集中させることもできます。
こうした付加価値の創出は、企業の長期的な成長と発展に不可欠な要素です。そのため、顧問弁護士の助言が経営判断の質を高め、ひいては企業価値の向上につながることも踏まえた判断が必要です。
緊急対応による損失最小化
トラブルが発生した際、顧問弁護士の迅速な対応により、初期対応の適正化と早期解決が可能となります。これにより、問題の長期化や追加損害の発生を防ぐことができます。
例えば、不当な請求や悪質なクレーム、急な不払いなどに対して、顧問弁護士が速やかに対処することで、不当請求を迅速に排除したり、迅速な債権回収を実現するなど、事態の悪化を未然に防ぎ、損失を最小限に抑えることができるでしょう。こうした緊急時の対応力は、顧問弁護士の大きな強みの1つです。
このように、リスク削減から万が一の損失の最小化まで、費用だけに囚われず価値に目を向けることが、費用対効果を見極めるための判断基準です。
必要に迫られる前に弁護士を探すのがおすすめ

企業経営において、法的トラブルは避けて通れない問題です。しかし、多くの企業は問題が発生してから慌てて弁護士を探すという傾向にありますが、これは非常にリスクの高い行為です。
なぜなら、法的問題が発生した時点で適切な弁護士を見つけるのは簡単ではないからです。急いで探した弁護士が、その問題に適任であるとは限りません。
また、弁護士との信頼関係を構築するには時間がかかります。問題発生時に初めて弁護士に相談するのでは、十分な対応ができないことも少なくはないでしょう。
一方、あらかじめ顧問弁護士を設置しておけば、法的リスクを未然に防ぐことができます。
顧問弁護士は、日常的に企業の法務をチェックし、潜在的なリスクを発見・指摘してくれます。トラブルの芽を早期に摘み取ることで、大きな問題に発展する前に対処できるのです。
また、顧問弁護士は企業の業務に精通しているため、問題発生時にもスムーズに対応できます。平時から企業との信頼関係を築いているため、的確なアドバイスを提供してくれるでしょう。
つまり、顧問弁護士を設置することは、企業にとって長期的な視点で見れば費用対効果の高い投資とも捉えることができます。
法的トラブルによる損失を考えれば、顧問弁護士への報酬額も決して高くはありません。むしろ、安心と安全を買うための必要経費であるとも考えられます。
企業経営において、リスク管理は非常に重要です。特に法的リスクは、放置すれば企業の存続にも関わる深刻な問題になりかねません。そうしたリスクを未然に防ぐためにも、必要に迫られる前に弁護士を探し、顧問契約を結ぶことをおすすめします。
関連記事:顧問弁護士の選び方とは?3つの失敗と押さえたい6つのポイント
顧問弁護士の必要性に関するFAQ
最後に、顧問弁護士の必要性に関する以下の質問へ回答します。
- 顧問弁護士のいない会社は大丈夫?
- 顧問弁護士と顧問ではない弁護士へ依頼する場合の違いは?
- 顧問弁護士に社員は相談できる?
顧問弁護士のいない会社は大丈夫?
結論から言えば、顧問弁護士がいない会社でも問題なく運営できる場合もありますが、トラブルに巻き込まれるリスクは高まります。
例えば、契約書のチェックや作成、労務管理、債権回収、訴訟対応など、会社運営には法律の専門知識を必要とする場面が多々あります。これらを社内だけで対応しようとすると、思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。
顧問弁護士がいれば、日常的な法律相談から緊急時の対応まで、専門家の助言を得ることができます。トラブルを未然に防ぎ、万が一の際にも適切な対処ができるため、会社の信頼性や安全性も高まるでしょう。
顧問弁護士と顧問ではない弁護士へ依頼する場合の違いは?
顧問弁護士と、顧問ではない弁護士へ依頼の大きな違いは、契約形態にあります。
顧問ではない弁護士は個別の案件ごとに依頼を受け、その都度報酬を支払う契約となるものです。案件ごとに依頼者の状況を把握する必要があるため、初動も遅れやすいです。
これに対して、顧問弁護士は、特定の企業や団体と継続的な契約を結び、法律問題全般をサポートします。会社の業務内容や組織構造を深く理解しているため、より的確なアドバイスが可能です。
また、トラブル発生時には、迅速かつ適切な対応で会社をサポートします。
まとめ
顧問弁護士は、企業にとって法的リスクを管理し、トラブルを未然に防ぐ上で欠かせない存在です。契約書のチェックや作成、労務管理、債権回収など、日常的な法律問題から緊急時の対応まで、幅広くサポートします。
また、顧問弁護士の必要性を判断する際は、潜在的なリスクコストの削減、コンプライアンス強化の便益、経営判断の適正化による付加価値の創出、緊急対応による損失最小化など、様々な観点から費用対効果を検討することが大切です。
長期的な視点で見れば、顧問弁護士への報酬額も決して高くはなく、むしろ企業の成長と発展に不可欠な投資となるでしょう。法律事務所Sでは、お客様の企業規模に合わせてお選びいただける顧問弁護士プランをご用意し、安全にビジネスを成長させていくために必要なサポートを提供しています。
顧問弁護士の設置に踏み切れない経営者の方は、まずは気軽に法律相談から始めてみてはいかがでしょうか。