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弁護士の末広です。
お客様相手のお仕事をされている方は、なんらかの形で「クレーム」を受けた経験があるのではないでしょうか。
クレームは「情報の宝」と言われています。
というのも、大半の顧客は、何か不満があったとしても、それを伝えることはせず、静かに離れていきます。そのため、改善すべき点があるのにも関わらず、これを把握する機会を得ることもなく、気づいたときには大規模な顧客離反が進んでいた、ということもあるのです。これに対して、クレームは、顧客からのフィードバックであって、顧客から与えられた改善のチャンスです。クレームの適切な把握と対応は、顧客満足度の改善につながり、事業価値を向上させるのです。
他方、近年では、顧客による行き過ぎた要求や苦情は「ハラスメント」である、という考えが広く社会に浸透しつつあります。同じ苦情であっても、その要求内容や、表現方法が度を超えていれば「カスタマーハラスメント」となるのです。
最近では、大手鉄道会社がカスタマーハラスメントを行う顧客には対応しないという方針を打ち出したり、大手保険会社が生成AIを活用したカスタマーハラスメントの検知システムを導入したりするなど、カスタマーハラスメントに対する毅然とした姿勢を示す企業が増えています。また、東京都は、現在、カスハラ防止条例制定に向けた取り組みを行っています。
カスタマーハラスメントは、
・対応する者の心身にダメージを与え、モチベーション低下やメンタル不調につながる
・従業員の退職につながる
・カスタマーハラスメント対応に時間や労力を割かれた結果、他の顧客への対応が十分にできなくなり、サービス品質の低下や顧客満足度の低下につながる
など、幅広い悪影響を及ぼします。
この中でも、現在とくに注目されているのが、カスタマーハラスメントによる従業員の心身への悪影響です。
2022年に日本労働組合連合会が公表した「カスタマーハラスメントに関する調査2022」では、カスタマーハラスメントにあった従業員の76.4%が、その後に生活上の変化が生じたと回答し、その具体的な変化の内容として、出勤が憂うつになった、心身に不調を来した等と回答しました。
労働契約法上、雇用主は、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働することが出来るように必要な配慮をする義務を負っています(「安全配慮義務」といいます。)。この安全配慮義務違反の中には、カスタマーハラスメントが発生したとき、それが原因で従業員の心身の安全が脅かされないように対応するべき義務が含まれます。その対応を怠り、その結果、労働者が心身に不調を来した場合、雇用主は、労働者から、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をされるリスクがあります。実際に、カスタマーハラスメントに遭遇した労働者が、職場が適切な対応をしてくれずに心身に不調が生じた、として、雇用主を相手に損害賠償請求を求めて訴えたケースが複数あります。
厚生労働省は、労災認定基準の内の「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、2023年9月1日付で厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知をしました。この中で、心理的負荷を与える具体的出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)が追加されました。これによって、従来よりも、カスタマーハラスメントに起因した心身の不調が労災認定されやすくなったものと考えられます。
この改正によってカスタマーハラスメントは労働災害を引き起こす原因の1つとして明示されたことで、雇用主側にカスタマーハラスメント対策が求める流れがさらに強化されたといえます。
カスタマーハラスメントを、単なる迷惑行為と捉えるのではなく、一緒に働く仲間の心身の健康を守る上で徹底した対策が必要な問題、と捉えて頂ければと思います。
このクレームはカスタマーハラスメントなのではないか?等、ご心配ごとやお困りごとがありましたら、どうぞ当事務所までお気軽にご相談下さい。