保険に入っているだけで、会社は本当に大丈夫?

先日、新たに社会福祉法人様と顧問契約を締結させて頂きましたが、その際に伺ったお話や他の業務との関係で、少々思うところがありました。
「ガスコンロからの出火は初期であれば消火スプレーで消せるが、対応を間違えれば大火事になり、鎮火に何台ものポンプ車と消防士が必要となり、多大な損害が発生する」という話。少々長いです。

賠償責任保険に入る施設や会社は、「何かあっても保険から出るから大丈夫」と思って入ります。
ところが、保険は何でも払ってくれるわけではなく、保険金が出るのは事故と「相当因果関係の範囲」のある損害に限られます。社会的にここまでは相当な範囲でしょう、という点まで限定されてしまうんですね。
ここまではご承知頂けると思いますが、実際にこの話から紛争に派生するパターンについては、ご存じでない方も多いのではないでしょうか。
この保険金の範囲の点で、多く払って欲しい被害者側と、なるべく保険金を抑えたい保険会社の意向は潜在的に相反しますが、これが現実化することがあります。福祉施設の利用者の事故や工事の瑕疵の場合によく見られる場面です(自動車事故は示談代行が付いているので、ひとまず本稿では省きます)。

保険に加入していたが、事故が起きました。施設・会社は、被害者であるお客様の要望を保険会社に伝えます。被害者は、感情的になっている部分もあり、様々な損害を含めて請求をしてきました。
施設・会社は、お客様の請求はちょっと過大だと思いましたが、お客様とケンカをしたくないため、「うちは保険に入っているから大丈夫です」と言って、その要望を保険会社に伝えました。ところが、保険会社は相当因果関係の範囲外だということで、被害者の請求の一部(または、損害を証明する資料がないということで全部)を否定してきました。

このような事態が、実際に生じています。実質的には請求するお客様と保険金を払う保険会社の争いですが、示談代行がないため、間に立つ施設・会社が板挟みになり、お客様からは「話が違うじゃないか」と責められ、保険会社からは「資料がないから駄目です」と素気なく言われ(余談ですが、時々、ここの対応に問題のある保険会社担当者がいます。資料入手の手法や手順をきちんと伝えられない担当者の件は、感情的しこりを残して揉めることが多いです)、大変なストレスとなってしまいます。

この辺りから、施設・会社側は、弁護士への依頼を考えることが多いようです。施設・会社側に弁護士に知り合いがいない場合、保険会社に紹介を求めることもあります。
ところが、保険会社で紹介した弁護士が、施設・会社側の意向を十分汲んで活動できるかという問題もあります(この点は、交通事故の場合に特に問題があるように思います)。
これらの問題が生じると、解決が遠のき、被害者であるお客様も余計に感情的になって問題をこじらせる可能性があります。特にSNSが普及し情報の拡散が早い現代社会では、風評被害等により取り返しのつかない事態となる危険も否定できません。

そのため、私は、このような場面では、保険事故が発生した時点で、事故の状況と施設・会社側の意向を十分把握して保険会社や被害者と折衝をしたり、少なくとも紛争解決までの全体像を施設・会社側に早い段階で伝える弁護士の存在は必要不可欠であり、顧問弁護士の使い方の一つと考えています。
保険に入れば大丈夫というのは、金銭面ではおおむねその通りですが(過大請求の場合は除きます)、「施設・会社が望む紛争の真の解決」のためには、保険は必ずしも万能ではないのです。

紛争が重大な局面に至れば、紛争対応に労力も時間も多く費やすことになりますが、そのような労力や時間は事業の発展には役に立ちません。
何によらず、初期対応が重視されるゆえんですね。

2017-02-12 | 企業経営